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津地方裁判所 昭和43年(行ウ)3号 判決 1975年10月02日

三重県四日市市泊町五番一九号

原告

長谷川義雄

右訴訟代理人弁護士

安藤巖

右訴訟復代理人弁護士

石坂俊雄

被告

四日市税務署長

久留宮明

右指定代理人

服部勝彦

大岡進

森国俊雄

森本善勝

鈴木洋欧

田中博道

大賀俊彦

浜卓雄

主文

一、被告が昭和四一年一一月二日付をもってした原告の昭和四〇年分所得税の総所得金額を金二四四万五、〇〇〇円、所得税額を金四七万六、一八〇円とする更正のうち、総所得金額につき二四三万八、五三六円を超える部分、所得税額につき総所得税額を二四三万八、五三六円として算定した税額を超える部分並びに過少申告加算税二万二、五五〇円の賦課決定の内右税額の超過部分に相当する部分を取消す。

二、原告のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し、昭和四一年一一月二日付でした原告の昭和四〇年分所得税の更正並びに過少申告加算税の賦課決定を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は昭和四〇年分所得税につき総所得金額六八万四、七七四円と確定申告したところ、被告は、原告の右所得金額には一部脱漏があるとして、昭和四一年一一月二日付で総所得金額二四四万五、〇〇〇円、税額四七万六、一八〇円と更正し、過少申告加算税二万二、五五〇円を課する旨の賦課決定した。

2  原告は、右処分を不服として、被告に対し昭和四一年一一月三〇日付で異議申立をしたが、右異議申立は昭和四二年二月二三日付で棄却され、さらに同年三月二二日付で名古屋国税局長に対し審査請求をしたところ、同局長は同年八月三一日付で右審査請求を棄却する旨の裁決をした。

3  しかし、原告にはその確定申告額以上の所得はなく、本件更正処分は違法であるから、原告はその取消を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1及び2の事実は認めるが、同3の事実は否認する。

三  被告の主張

1  被告のした本件更正処分の計算根拠は、次のとおりである。

(一) 総所得金額 二四四万五、〇〇〇円

(二) 所得控除額 四三万五、八九〇円

(三) 課税総所得金額 二〇〇万九、一〇〇円

(四) 算出納税額 四七万六、一八五円

(五) 申告納税額 四七万六、一八〇円

(六) 過少申告加算税額 二万二、五五〇円

2  ところで、原告は現実には、昭和四〇年分所得として、次のような収入を得ていたものである。

(一) 給与所得

(1) 日永保育園からの収入金額 三四万五、四六六円

(2) 所得税法二八条三項一号による給与所得控除額 九万一、〇九三円

定額控除額 給与所得控除額

27,500+(345,466-27,500)×0.2=91,093円

(3) 差引給与所得金額 二五万四、三七三円

(二) 事業所得

(1) 売上総金額 一、三八一万〇、五九二円

明細は別紙(一)売上金額内訳表被告の主張欄及び(一)の1ないし9の売上金額明細表記載のとおり。

(2) 必要経費 一、〇七八万〇、四一五円

明細は別紙(二)必要経費内訳表被告の主張欄記載のとおり。

(3) 差引事業所得金額 三〇三万〇、一七七円

(三) 総所得金額((一)の(3)+(二)の(3)) 三二八万四、五五〇円

3  売上金のうち売上先不明分二三一万四、七四八円の推計根拠

(一) 原告方には、売上、仕入、経費に関するルーズリーフ式の帳簿及び手形記入帳、給与計算台帳が存在するが、右各台帳の真実性の裏付けとなる金銭出納帳が存在せず、原告方備付けの各帳簿の記録相互間にも相当数のそごがあり、また原告方備付けの売上帳と売上先備付の帳簿とを対照してみても、原告方売上げ帳には脱漏があることが認められる。従って、原告方備付けの帳簿によっては、正確な売上額を計算することができない。

(二) ところで、原告は、百五銀行四日市支店日永出張所に当座預金口座を、同銀行四日市駅前支店に普通預金口座を、いずれも原告名義で開設しているが、原告の場合、事業活動以外の収入としては、日永保育園からの毎月平均二万八、〇〇〇円程度の給与収入しか考えられないところ、右各預金口座の入金状況をみると、給与収入のような定期的かつ定額の入金は見当らず、右各口座は専ら原告の営業遂行上発生した諸収入、諸支出を行うために設けられたものとみることができる。

(三) しかるに、右各預金口座の昭和四〇年分の入金のうち、借入金等の売上金にあたらないもの及び売上先判明分の入金を除いた不明入金分は、当座預金口座については別紙(三)の明細表のとおり合計二五五万〇、〇五〇円であり、普通預金口座については別紙(四)の明細表のとおり四五万一、〇三四円で、右両口座の不明入金額を合わせると、総額三〇〇万一、〇八四円となる。しかし、売上先判明分のうち六八万六、三三六円については原告が直接現金で領収したとみられ、右現金入金分については、その一部が右預金口座に入金される場合も考えられるので、課税の重複を避け所得計算の確実性を期するため、前記両預金口座の不明入金総額から右現金入金額全額を控除した残額二三一万四、七四八円を売上先不明分の売上金額と推計したものである。

4  従って、被告が、前記2の(三)記載の総所得金額三二八万四、五五〇円を下まわる二四四万五、〇〇〇円を原告の昭和四〇年分総所得金額と認定した本件更正処分には何ら違法はない。

四  被告の主張に対する原告の答弁

1  被告の主張2の事実中、(一)の給与所得分は、すべて認める。(二)の売上総金額については、別紙(一)売上金額内訳表原告の答弁欄及び(一)の1ないし9の売上金額明細表記載のとおりであり、必要経費については、別紙(二)原告の答弁欄記載のとおりである。

もっとも、原告は当初昭和四六年六月二四日の第二一回口頭弁論期日において被告主張の必要経費のうち福利厚生費及び借入金利子割引料についてこれを認めたが、それは真実に反し錯誤に基づくものであるから、右自白を撤回し否認する。

2  同3の事実は争う。

(一) 被告の主張する別紙(三)の不明入金のうち三月五日の二万円、六月一七日の五〇万円、同月二六日の三万五、〇〇〇円、同月二八日の七万円中一万五、〇〇〇円、七月二九日の一一万五、〇〇〇円中七万円はいずれも訴外小向真人からの借入金であり、一二月一〇日の三三万円中二八万七、一八八円は国民金融公庫からの借入金であり、被告においてその他の売上先不明入金分と主張するものは、保育園よりの賃金収入の入金、貸付金、立替金等の返金及び一度引出した現金の再度の入金等であって、被告の主張するような売上金の入金ではない。

(二) 被告の主張する別紙(四)の普通預金口座は、原告が管理していた日永保育園専用の口座であり、園児の保育料が入金になる都度入金し、保育園の必要経費にあてるため支出していたものである。

(三) 更に、被告が原告の預金額から控除している現金入金分については、被告主張のほかに昭和四〇年中次のような入金があったものであり、その金額も控除せらるべきものである。

(1) 金山建材

被告主張額のほか、昭和四〇年期首売掛金残高八〇〇円の入金がある。

(2) 平和コンクリート

期首売掛金残高一万三、四四〇円の入金があるほか、昭和四〇年分売上についても、現金による入金分がある。

(3) 四日市市役所

期首売掛金残高二万三、五〇〇円の入金がある。

五  原告の主張

1  更正処分の基礎とされなかった事実を本件訴訟において主張することの違法性

所得金額は、客観的に存在しているものであるとしても、税額の確定の関係では納税者が自ら申告することによって、右客観的に存在する所得金額が具体化し、特定の金額として確定することを原則とするものであり、申告のない場合、申告にかかる税額の計算が法律の規定に従っていない場合或いは税務署長の調査と異なる場合に、例外として税務署長の処分により確定するものである(国税通則法一六条一項一号)。申告がなされている場合に、税務署長が右申告と異る更正処分を行うためには、それを裏付けるに足る理由が存しなければならず、かつ、その理由は右処分時に存在しなければならないものであり、右処分の取消訴訟の対象は、更正処分によって確定された課税標準や税額であるというべきである。従って、更正処分後の調査により判明した新たな事実を本件訴訟において主張することは許されない。しかるに、被告は、本件訴訟において、更正処分後新たに調査判明した事実に基づき、必要経費の内訳、売上金額等をたびたび変更しているが、このような被告の主張の変更は、許されないものである。

2  民主商工会会員に対する権利の濫用

原告はいわゆる民主商工会会員であるが、税務当局は、昭和三九年以降同会会員は脱税しているとの不当な偏見をもって同会員に対し、高圧的な態度で更正処分を次々と行っている。原告に対する本件更正処分も、前記会員を敵視し、充分な調査を行うことなく、所得税法一五六条の推計課税方式を濫用して根拠のない推計課税を行ったものである。

六  原告の主張に対する被告の答弁及び反論

1  原告の必要経費のうち福利厚生費及び借入金利子割引料についての自白の撤回に異議がある。

2  原告の主張1は争う。課税要件は、すべて各税法に実体的に規定されており、右課税要件の充足によって抽象的な納税義務が成立するものであるから、右抽象的納税義務は客観的、一義的に定まっているものである。更正処分は、右のような客観的、抽象的に成立している租税債務たる課税標準、税額等を具体的に確定させる手続にすぎないから、課税処分取消訴訟の審理の対象は、当該更正処分により認定された課税標準等が客観的に存在するか否かであるというべきである。

従って、被告が、本件訴訟の口頭弁論終結に至るまでに判明したすべての資料によって、主張立証することができることは当然のことといわなければならない。

第三証拠

一  原告

1  甲第一号証の一ないし三、第二ないし第六号証、第七、第八号証の各一、二、第九号証、第一〇号証の一、二、第一一ないし第一三号証、第一四号証の一ないし四、第一五ないし第二〇号証、第二一号証の一、二、第二二ないし第三〇号証、第三一号証の一、二、第三二号証、第三三号証の一ないし四、第三四号証の一、二、第三五号証の一ないし三、第三六号証

2  証人松田孝男、同荒井孝行、同内藤雛生

3  乙第七ないし第一〇号証、第一二号証の一、第一五、第一六号証、第一八号証、第二〇号証、第二四号証、第二七号証の成立(第九号証、第一六号証、第二四号証、第二七号証については原本の存在とも)は認め、第一三号証中小切手の表面は不知、その余の部分の成立は認め、第一四号証中添付回答書部分の成立は不知、その余の部分の成立は認め、その余の乙号各証の成立は不知

二  被告

1  乙第一号証の一ないし五、第二ないし第一一号証、第一二号証の一、二、第一三ないし第二八号証

2  証人羽後正義、同山田実(第一、二回)、同城田巖、同中山実好(第一、二回)

3  甲第二ないし第四号証、第九号証、第一一、第一二号証、第一九、第二〇号証、第二一号証の一、二の成立は認め、第二六号証中付箋部分の成立は不知、その余の部分の成立は認め、その余の甲号各証の成立は不知

理由

一  原告主張の請求原因1及び2の事実及び原告の給与所得が被告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。

二  まず、売上先判明分の昭和四〇年度中の売上金額について検討する。

1  別紙(一)の売上金額内訳表の内売上先判明分については、同表(16)の進和商会、(20)の高田工業所、(24)の中部ジーゼル、(30)の林興業、(37)の松永商店、(41)の三菱化工機、(42)の三重日産、(49)の三宅建設、(58)の小林正次郎に対する後記売上金の一部を除き、その余の売上先及びその金額については、当事者間に争いがない。

2  そこで、以下右争いのある分につき順次検討することとする。

(16)の進和商会について

別紙(一)の1の入金明細表中入金合計欄の五、二六〇円及び同欄五万〇、四九〇円の売上を除くその余の売上については原告において明らかに争わないのでこれを自白したものとみなすべく、右五、二六〇円と五万〇、四九〇円計五万五、七五〇円の入金については、成立に争いのない甲第三号証、乙第九号証(原本の存在も含む)、証人城田巖の証言により真正に成立したことが認められる乙第二号証、第一一号証によれば、原告の百五銀行四日市支店日永出張所の当座預金口座には、昭和四〇年二月二〇日進和商会振出の小切手によって五、二六〇円の入金がなされていること、同月二六日、同月二〇日振出、金額五万〇、四九〇円、支払人大成電機産業株式会社、裏書人進和商会の為替手形が取立により入金となっていることが認められ、右事実によれば、進和商会に対し昭和四〇年度中に五万五、七五〇円の売上があったことを認めうるが如くである。

しかしながら、前記甲第三号証及び証人内藤雛生の証言によれば、原告は昭和三九年一二月一七日金額五万五、七五〇円、振出人山田九三郎、裏書人進和商会の約束手形を受取り、これをもって百五銀行にて割引を依頼したところ、右割引を断られたので、原告は進和商会に対し右約束手形の交換を依頼し、昭和四〇年二月二〇日右手形と前記為替手形及び五、二六〇円の小切手とを交換してもらったことが認められ、右事実に徴し、前記五万五、七五〇円の入金をもって昭和四〇年度の売上ということができず、他に昭和四〇年度中に右同額の売上があったことを確認するに足る証拠はない。

よって、原告の進和商会に対する昭和四〇年度中の売上は八万七、〇五〇円というべきである。

(20)の高田工業所について

期首売掛金及び期末売掛金が別紙(一)の2の売上金額の算定欄記載のとおりであること、入金明細表の入金中二月一日の九〇〇円を除くその余の一三万三、九三三円の売上があったことは当事者間に争いがない。しかして、前掲乙第二号証によれば、二月一日高田工業所から原告の当座預金口座に小切手又は現金にて九〇〇円の入金がなされたことが認められ、右事実によれば、右九〇〇円の入金は昭和四〇年中の売上と推認しうるが如くである。しかしながら、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認むべき甲第二九号証によると、原告は高田工業所に対し、昭和三九年中に九〇〇円相当の自動車(セドリツク)の時計の修理をしたことが認められ、右事実に徴し、被告の主張する九〇〇円は昭和三九年中の売上とみる余地が多分にあり、他に右金員が昭和四〇年中の売上にかかるものであることを確認するに足る証拠はない。

よって、原告の高田工業所に対する昭和四〇年度中の売上は一三万三、九三三円というべきである。

(24)の中部ジーゼルについて

中部ジーゼルに対する昭和四〇年度の売上が少なくとも二、六六〇円(うち相殺による入金分一、六六九円)あったこと、同年度中に二、一七六円の相殺による入金があったことは当事者間に争いがない。

被告は、右二、一七六円の入金は昭和四〇年度の売上であると主張するのに対し、原告は右入金は同年度期首売掛金の入金であると主張するので検討するに、証人羽後正義の証言により真正に成立したことが認められる乙第一号証の二及び同証人の証言によれば、同年度期首売掛金残高は零であることが認められ、右事実に徴すれば前記二、一七六円は昭和四〇年度中の売上であることが認めうるが如くであるが、却って、証人内藤雛生の証言により真正に成立したことが認められる甲第二八号証及び同証人の証言によれば、右二、一七六円は昭和三九年一二月分売掛金に対する入金であることが認められ、他に被告主張事実を確認するに足る証拠はない。

よって、原告の中部ジーゼルに対する昭和四〇年度中の売上は二、六六〇円というべきである。

(30)の林興業について

別紙(一)の4の入金明細表中一〇月五日の一万一、四四五円を除くその余の売上については、明らかに争わないから原告においてこれを自白したものとみなすべく、証人羽後正義の証言により真正に成立したことが認められる乙第一号証の三によれば、一〇月五日一万一、四四五円の売上があったことが認められ、右認定に反する証拠はない。

よって、原告の林興業に対する昭和四〇年度中の売上は一一万一、七二〇円というべきである。

(37)の松永商店について

期首売掛金及び期末売掛金が別紙(一)の5の売上金額の算定欄記載のとおりであることは当事者間に争いがなく、入金明細表の入金中五月一〇日の三万円の売上金の記載を除き六〇万六、〇五六円の売上があったことは原告において明らかに争わないからこれを自白したものとみなすべく、前掲乙第二号証によれば、右同日、松永商店から原告の当座預金口座に三万円の入金がなされていることが認められ、以上の事実によれば、右三万円は昭和四〇年度中の売上による入金と推認される。

原告は、右入金は同年四月一五日すでに五万円が入金になっており、右五万円の内三万円が先日付小切手で支払われ、それが五月一〇日に入金として重複して計上されている旨主張するが、右事実を認めしめるに足る証拠はない。

よって、原告の松永商店に対する昭和四〇年度中の売上は六五万六、〇五六円ということになる。

(41)の三菱化工機について

別紙(一)の6の売上金額の算定表中期首売掛金欄が零であることは当事者間に争いがなく、入金明細表中八月二六日の二、五〇〇円を除くその余の売上については原告において明らかに争わないからこれを自白したものとみなすべく、前掲乙第一号証の三によると、一一月二〇日二、五〇〇円の振込みがあったことが認められ、右事実に徴し、同日同額の売上があったものと推認され、右認定を覆すに足る証拠はない。

よって、原告の三菱化工機に対する昭和四〇年度中の売上は二万九、九〇〇円と認むべきである。

(42)の三重日産について

別表(一)の7の入金明細表中一四一万八、八六〇円の売上があったことは当事者間に争いがなく、証人城田巖の証言により真正に成立したものと認める乙第四号証によると、昭和四〇年度の期末売掛金が二六万二、三〇〇円であり、期首売掛金が八万四、一〇〇円であることが認められ、右事実に徴し昭和四〇年中における原告の三重日産に対する売上は一五九万七、〇六〇円と認むべく、右認定に反する証拠はない。

よって、原告の三重日産に対する昭和四〇年度中における売上は一五九万七、〇六〇円ということになる。

(43)の三宅建設について

別表(一)の8の売上金額の算定表中期末売掛金欄が零であることは当事者間に争いがなく、同表売上金額の入金明細表中二月二〇日五万一、〇〇〇円の売上を除くその余の売上については原告において明らかに争わないからこれを自白したものとみなすべく、証人中山実好(第一回)の証言により真正に成立したものと認むべき第五号証によれば、昭和四〇年二月二〇日の取引につき同年六月一一日満期の手形で決済したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

よって、原告の昭和四〇年度における三宅建設に対する売上は四六万七、四五〇円となる。

(58)の小林正次郎について

別紙(一)の9の売上金額の算定表中期首売掛金及び期末売掛金がいずれも零であることは当事者間に争いがなく、小切手の表面部分を除くその余の部分の成立については争いがなく、右小切手の表面部分については証人中山実好(第一回)の証言により真正に成立したことが認められる乙第一三号証によれば、原告の小林正次郎に対する昭和四〇年中の売上は一〇万円であったことが認められ、甲第三三号証の一ないし四の記載も右認定を左右するに足らず、他に右認定に反する証拠はない。

よって、原告の昭和四〇年度中における小林正次郎に対する売上は一〇万円ということになる。

3  以上のとおりであって、原告の昭和四〇年度中における売上先判明分の売上金額は合計一、一四三万七、〇一八円となる。

三  次に、売上先不明分の昭和四〇年度中の売上金額について検討する。

1  証人羽後正義、同内藤雛生、同山田実(第一回)の各証言、右山田証人の証言により真正に成立したものと認められる乙第一七号証によれば、原告方には会計帳簿として、売上帳、仕入帳、手形記入帳、給与台帳等が備付けられているが、金銭出納帳の備付がないこと、本件更正処分に対する異議申立および審査請求に関する四日市税務署および名古屋国税局の係員の調査の際、原告方備付けの車検整備記録簿には、昭和四〇年中に原告方で三七両(うち二両は依頼主不明)の車検整備をした旨の記載があったが、売上帳にはそのうち一五両についてしか計上されておらず、手形記入帳と売上帳を照合してもその間にそごがあって手形記入帳に記載があっても売上帳に計上もれとなっているものがあり、また税務官署による取引先についての反面調査の結果や銀行預金口座と原告方売上帳との照合によっても符合しないものがあり、更にまた、売上帳には現金売上げ分が計上されていないことが判明したこと、右調査の際、係員が原告に対し領収書、請求書の控え等のいわゆる原始記録の提示を求めたところ、原告の提示した書類はそのうちのごく一部にすぎず、他はこれに応じなかったこと、以上の事実が認められる。

また、前記二において認定の原告の売上金額、当事者間に争いのない売上金の内原告において買掛金と相殺したもの及び期首期末売掛金に、前顕乙第一号証の二、三、第二号証、第四、第五号証、第九号証、第一一号証、第一六号証、甲第三号証、成立に争いのない甲第四号証、第一九号証、乙第一六号証(原本の存在を含む)、証人羽後正義の証言により真正に成立したことが認められる乙第一号証の一、四、五、第二三号証、証人中山実好(第一、二回)の証言により真正に成立したことが認められる乙第六号証、第一二号証の二、第二五号証、証人羽後正義、同中山実好(第二回)の証言並びに弁論の全趣旨を総合すると、原告の昭和四〇年度中の百五銀行四日市支店日永出張所における当座預金口座の入金総額は一、三八二万〇、七六四円、同銀行四日市駅前支店における普通預金口座の入金総額(但し同年三月二六日から同年一二月一〇日まで)は五七万七、八三四円であること、右入金額の内当座預金には別紙(三)記載のとおり入金源泉が不明のものが二五五万〇、〇五〇円あり、普通預金口座には別紙(四)記載のとおり入金源泉が不明のものが四五万一、〇三四円あること、前記認定の原告の昭和四〇年度中における売上先判明分の売上額一、一四三万七、〇一八円の入金方法は預金に振込まれたもの一一五万六、七四七円、手形によって受入れたもの八三三万八、〇九六円、買掛金と相殺したもの五一万〇、五一六円、未収になっているもの七四万五、三二三円あって現金によって受入れたと目されるものが六八万六、三三六円あること。なお別紙(四)の普通預金口座への入金額は売上先が判明していて右当座預金口座に入金になったもの、その他預金口座の振替等売上によらないと考えられるものは除外してあることが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

ところで、原告の収入としては自動車修理業による売上代金のほか日永保育園からの一か月二万八、〇〇〇円程度の給与(同保育園からの年収が三四万五、四六六円であることについては当事者間に争いがない。)があるのみで、他に特別の収入があることを窺わせるに足る証拠のない本件においては、原告名義の当座預金口座(乙第二号証)への入金状況及び原告名義の普通預金口座(乙第一六号証)への入金状況に照らして、これらがいずれも給与収入のような定期的な入金とは認め難いのみならず当座預金口座には前記売上先判明分の多くが入金されている事実に徴して、右口座が主として原告の営業上の取引にかかる金員の出し入れのために利用していたものということができ、しかも前記三の1の冒頭において認定した事実を合わせ考えると、後記のとおり借入金等売上金に該当しない入金であることを窺わせるものを除いては、右売上先不明分は昭和四〇年度の売上による入金と推定しうるものというべきである。なお、売上先判明分の内現金により受入れたと目される前記六八万六、三三六円は被告主張のように当座預金口座に入金される場合のあることも十分に考えられるので、重複を避けるため、別紙(三)の入金額から右金額全額を控除するのが相当である。

2  そこで、以下原告が前記預金口座に対する入金分のうち、入金日時、金額等を具体的に特定して売上金でないと争うものおよび保育園の保育料の入金であると主張するものについて順次検討することとする。

(一)  六月一七日五〇万円入金分

弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第二三号証には、昭和四〇年六月一七日は三重県信用保証協会からの借入金五〇万円の返済期日であったが、当時原告には手持現金も当座預金残高もなかったため、右弁済に充てるため小向真人から五〇万円を借入れて当座預金とし、翌一八日右信用保証協会から五〇万円を借入れたので翌一九日右小向に小切手で五〇万円を返済した旨の記載があり、右記載は、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第二四号証、同第二五号証の原告の小切手帳控の記載および前顕乙第二号証の当座預金口座によって認められる昭和四〇年六月一七日当時の預金残高、その後の入出金状況即ち同月一七日五〇万円の入金があり他方同日五〇万円の支払がなされ、更に同月一八日四八万八、四七五円の入金、同月二一日五〇万円の支払がなされていることとも符合しており、従って、被告の主張する前記五〇万円の入金は、原告主張のとおり借入金であることがうかがわれ、他に右入金が売上金であるとの被告の主張事実を認めるに足る証拠はない。

(二)  一二月一〇日三三万円のうち二八万七、一八八円入金分

成立に争いのない甲第二六号証(但し付箋部分を除く)によれば、原告は昭和四〇年一二月一〇日国民金融公庫から四〇万円を借受け、そのうちからこれまでの借受残金等を控除されたうえ、同日、二八万七、一八八円を受領したことが認められ、右借入金の受領日と右三三万円の入金日とは同日であり、従って、右借入金が預金されたことも十分考えられるし、また前記乙第二号証により認められる原告の売上入金状況からして右金員は比較的多額で稀な部類に属することなどから、これを否定する証拠のない限り預金として入金されるのが通常と考えられるから、被告の主張する前記三三万円の入金のうち二八万七、一八八円は右借入金とみる余地が多分にあり、他に右金員が売上金によるものであるとの被告の主張事実を認めるに足る証拠はない。

(三)  三月五日二万円、六月二六日三万五、〇〇〇円、六月二八日七万円のうち一万五、〇〇〇円、七月二九日一一万五、〇〇〇円のうち七万円の各入金分

右各入金分については、それが借入金によるものであることをうかがわせる資料はなく、従って右各入金分は、前記売上による入金と推認される。

(四)  普通預金口座について

原告は日永保育園の園児の保育料が入金になる都度普通預金口座に入金し、保育園の必要経費のため支出していたと主張するが、保育料は本来市(本件の場合四日市市)が徴収すべきものである(児童福祉法五六条)ところを、便宜上保育園長にその徴収を委託しているにすぎず、従って、受入れの都度四日市市に納入すべきものであり、保育園の必要経費は国又は市から支弁されることになっており(同法五一条、五二条)、しかも前記乙第一六号証によれば、普通預金口座への入出金状況は金額が一定でなく、又入出金も定期的でないことが認められ、従って、保育料が入金になる都度入金し、四日市市に納入するために出金されたり、あるいは必要経費のため出金されたとは到底認めることはできないし、その他右主張事実を窺わせる資料もない。

3  さらに、原告が預金口座の不明入金額から更に控除すべきであると主張する分につき検討する。

(一)  金山建材について

証人内藤雛生の証言により真正に成立したことが認められる甲第二七号証及び同証人の証言によると、原告は昭和三九年一二月二〇日金山建材に対し八〇〇円の売上をしたこと、そして昭和四〇年二月二五日右八〇〇円の入金があったことが認められるが、前記乙第一号証の三によると、金山建材に対する期首売掛残高は零であることが認められ、なお、同号証と右甲第二七号証を対比すれば、右八〇〇円は被告主張の売上額には含まれていないことが認められるので、原告の主張は採用することができない。

(二)  平和コンクリートについて

証人中山実好の証言(第一回)により真正に成立したものと認められる乙第一二号証の二、同証人の証言によれば、昭和四〇年の平和コンクリートに対する期首売掛金残高は零であり、かつ同年中の売上代金一八万七、八〇〇円はすべて手形若しくは小切手で支払がなされていることが認められ、右認定に反する証拠はない。

(三)  四日市市役所について

前掲乙第一号証の二、四、成立に争いのない甲第一九号証によれば、四日市市役所に対する昭和四〇年の期首売掛金残高は一万〇、九〇〇円、期末売掛金残高は二万〇、二〇〇円であることが認められ、右認定に反する証拠はない。そして右市役所に対する昭和四〇年の売上が前記のとおり二六万七、二四〇円であることは当事者間に争いがないから、同市役所からの入金は、二五万七、九四〇円となるところ、前掲乙第二号証によれば、右のうち二五万七、七四〇円が当座預金口座に入金されていることが認められるから、残金二〇〇円のみが現金等その他の方法で入金されたこととなる。しかしながら右二〇〇円が預金口座に入金されたとしても、前記のとおり被告において計算上既に控除しているので、さらに控除する必要はない。

4  以上のとおりであって、被告主張の当座預金口座不明入金合計二五五万〇、〇五〇円のうちから、借入金の入金と認められる六月一七日分五〇万円、一二月一〇日分二八万七、一八八円及び被告において差引くべきであるとする前記六八万六、三三六円を控除した一〇七万六、五二六円及び別紙(四)の四五万一、〇三四円合計一五二万七、五六〇円が売上による入金と認めるのが相当である。

四  次に、必要経費について検討する。

1  別紙(二)記載の必要経費の内同表(1)の売上原価、(2)の公租公課、(4)の旅費通信費、(6)の保険料、(7)の社会保険料、(8)の消耗品費、(10)の減価償却費、(12)の外注費及び(14)の建物減価償却費が被告主張のとおりであることは当事者間に争いがない。

2  次に、原告は当初被告主張の必要経費のうち(9)の福利厚生費二万五、九〇〇円、(15)の借入金利子割引料二六万八、一〇六円についてした自白をその後撤回したので、右自白の撤回が有効であるか否かにつき判断するに、右自白が真実に反し錯誤に基づくものであることを確認するに足る証拠がないので、右自白の撤回は無効といわなければならない。従って、右の各経費については、右金額の限度において認めることになる。

3  水道光熱費について

証人山田実の証言(第二回)により真正に成立したことが認められる乙第二六号証および同証言によれば、原告の昭和四〇年度の水道料および電気料の支払額は、その支払額が不明である同年二月及び一二月の水道料を除いて合計一六万三、五五七円であること並びに同年一月及び一一月の各水道料がそれぞれ一、四一五円、三、二三五円であることが認められ、そして、右不明の月の水道料をそれぞれその前月の水道料と同額と推定して計算すると一六万八、二〇七円となる。しかして、原本の存在及び成立に争いのない乙第二七号証によれば、全国の個人営業世帯における年間平均支出額は水道料二、六四三円、電気料一万一、二四二円計一万三、八八五円であることが認められ、特段の事情の認められない本件においては、原告方においても同程度が家庭用として使用されていると認めるのが相当であるから、これを控除すれば、水道光熱費は一五万四、三二二円ということになり、右金額以上に原告が水道光熱費を支出したことを確認するに足る証拠はない。

4  接待交際費について

原告が、接待交際費として三万〇、五三六円を「たい家」に対し支払ったことは、当事者間に争いがなく、他に原告が接待交際費として支出したことを確認するに足る証拠がないから、原告の接待交際費は、被告主張のとおり三万〇、五三六円の限度において認むべきである。

5  雑費について

原告が「近藤カメラ」店に対し一万七、四四四円を支払したことは当事者間に争いがなく、右金額を超える一万八、五五六円についてはこれを確認するに足る証拠がないから、雑費としては右一万七、四四四円と認むべきである。

6  雇人費について

成立に争いのない甲第二〇号証、第二一号証の一、二によれば、昭和四〇年中に原告が雇人に対して支払った給料等の総額は五五七万六、三九八円であるが、右総額の中には、雇人の積立てた積立金返戻分七、〇九五円及び雇人の遅刻、早退による賃金カット分四万〇、二三二円が含まれており、原告が実際に雇人費として支払った額は、前記支給総額から右返戻分およびカット分を控除した五五二万九、〇七一円であることが認められ、右金額以上に原告が雇人費として支出したことを確認するに足る証拠はない。

7  以上のとおりであって、必要経費は合計一、〇七八万〇、四一五円となる。

五  更正処分の基礎とされなかった事実を本件訴訟において主張することの違法性の有無について検討する。

抗告訴訟においては、当該行政処分の適法性が審理の対象となるものであり、行政庁が右処分に付した理由の当否のみを審理の対象とするものではないから、被告が、本件更正処分によって決定された課税標準及び税額を維持するため、右処分当時考慮しなかった事実を本件訴訟において新たに主張することは何ら違法ではなく、また裁判所も、処分当時右事実が客観的に存在していたものであることが認められる以上、右事実に基づいて、本件更正処分の当否を判断することができるものというべきであってこの点に関する原告の主張は採用できない。

六  民主商工会員に対する権利の濫用の有無について検討する。

証人松田孝男、同荒井孝行の各証言によれば、原告が昭和三九年ころ主として中小商工業経営者によって組織され、税務関係の活動団体であるいわゆる四日市民主商工会に入会していたこと、昭和三九年ころから同会と税務当局との間で、税務調査や申告方法の取扱い等をめぐって多少の軋轢が生じていたことがうかがえるが、しかし、右事実のみをもって、被告の原告に対する本件更正処分が、原告が民主商工会員である故をもって、推計課税方式を濫用してなされたものと認めることはできず、他に原告の右主張事実を認めるに足る証拠はない。

七  結論

以上説示のとおりであって、原告の昭和四〇年分所得は、給与所得二五万四、三七三円、事業所得二一八万四、一六三円(売上先判明分一、一四三万七、〇一八円に売上先不明にして売上げと認むべき一五二万七、五六〇円を加えたものから必要経費一、〇七八万〇、四一五円を控除したもの)、総所得金額二四三万八、五三六円と認められ、従って、被告が原告の所得金額を二四四万五、〇〇〇円、所得税額を四七万六、一八五円としてなした本件更正処分は、前記認定の総所得金額二四三万八、五三六円を超える部分、所得税額につき右総所得金額を右同額として算定した税額を超える部分並びに前記過少申告加算税の賦課決定の内右税額の超過部分に相当する部分は違法であり、その限度で取消を免れない。

よって、原告の被告に対する本訴請求は、右説示の限度で理由があるからこれを認容し、原告のその余の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 白川芳澄 裁判官 林輝 裁判官 若林諒)

別紙(一)

売上金額内訳表

被告の主張 原告の答弁

1 売上先判明分

<省略>

(1) 当座預金口座の不明入金分 2,550,050円

(2) 普通預金口座の不明入金分 451,034円

(3) 売上先判明分の入金とみられる分 686,336円

(1)+(2)-(3)=2,314,748円

別紙(一)の1

進和商会に対する売上金額明細表

<省略>

<省略>

別紙(一)の2

高田工業所に対する売上金額明細表

<省略>

<省略>

別紙(一)の3

中部ジーゼルに対する売上金額明細表

<省略>

<省略>

別紙(一)の4

林興業に対する売上金額明細表

<省略>

<省略>

別紙(一)の5

松永商店に対する売上金額明細表

<省略>

<省略>

別紙(一)の6

三菱化工機に対する売上金額明細表

<省略>

<省略>

別紙(一)の7

三重日産に対する売上金額明細表

<省略>

<省略>

別紙(一)の8

三宅建設に対する売上金額明細表

<省略>

<省略>

別紙一の9

小林正次郎に対する売上金額明細表

<省略>

<省略>

別紙(二)

必要経費内訳表

<省略>

別紙(三)

当座預金の不明入金明細表

<省略>

(注) 本表は、百五銀行四日市支店日永出張所の共立自動車長谷川義雄名義の当座勘定元帳に基づいて作成した。

別紙(四)

普通預金の不明入金明細表

<省略>

(注) 本表は、百五銀行四日市駅前支店の長谷川義雄名義の普通預金元帳に基づいて作成した。

別紙(五)

売上金額算定表

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

(注)1 一、一六二、九〇七円は「売上先判明分の売上入金」の「預金に振込まれたもの」の小計と照合する。

(注)2 「(一)当座預金」の「入金額のうち入金源泉不明なもの」の小計である。

(注)3 「(二)普通預金」の「入金額のうち入金源泉不明なもの」の小計である。

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